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千葉地方裁判所 平成5年(行ウ)15号 判決

原告

須藤由章

関屋シヅ

原告ら訴訟代理人弁護士

田村徹

被告

千葉市土気南土地区画整理組合

右代表者理事長

橋本實

右訴訟代理人弁護士

田宮甫

堤義成

鈴木純

吉田繁實

白土麻子

田宮武文

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  請求

原告らと被告との間で、原告らに被告の組合員たる地位がないことを確認する。

第二  事案の概要

本件は、被告の土地区画整理事業施行地区内の土地を他の者と共同所有し、被告の組合員とされた原告らが、被告の設立は無効であり、千葉県知事による被告の設立認可処分も重大明白な瑕疵があって無効であるから、原告らは被告の組合員としての地位にないと主張して、被告組合員としての地位の不存在確認を求めた事案である。

そして、原告らは、被告の設立の無効原因として、被告の設立の際施行地区を定めるに当たり、施行地区の境界(施行地区界)に接する土地について、他の者と共同所有していた原告らの同意を得ないまま、偽造の登記申請委任状により右土地を分筆して施行地区を定めた瑕疵があるので、施行地区は確定しなかったものであり、したがって、被告の設立も無効であると主張するものである。

一  争いのない事実

1  原告らは、被告の土地区画整理事業の施行地区(以下「施行地区」という。)内に在住する者ではないが、施行地区内にある別紙1(物件目録)記載一の各土地(以下、例えば「五四番二の土地」という。)を他の共有者とともに共同所有し、その結果、被告の組合員とされている者である(土地区画整理法(以下「法」という。)二五条一項参照)。

また、原告らは、被告の施行地区に隣接する別紙1(物件目録)記載二の各土地(以下、例えば「五四番一の土地」という。)を他の共有者とともに共同所有している(以下、別紙物件目録記載一の土地と同二記載の土地とをそれぞれ「一の各土地」「二の各土地」といい、また併せて「本件各土地」という。)。

一の各土地と二の各土地の位置関係は、別紙図面のとおりである。

2  被告は、千葉市緑区土気町、小山町等において宅地利用の増進、公共施設の整備改善等のため土地区画整理事業を行うことを目的として設立された土地区画整理組合であり、昭和五七年九月二八日、法一四条一項に基づき千葉県知事による設立認可を受けたものである(以下「本件設立認可処分」という。)。

3  土地区画整理組合の設立に当たっては、定款及び事業計画を定めた上で、設立について知事の認可を受けなければならない(法一四条一項)。そして、定款には施行地区(土地区画整理事業を施行する土地の区域)に含まれる地域の名称を記載すべきものとされ、事業計画においても、建設省令で定めるところにより施行地区を定めなければならないところ(法一六条、六条)、事業計画における施行地区は、施行地区位置図及び施行地区区域図を作成して定めなければならず(土地区画整理法施行規則(以下「規則」又は「施行規則」という。)五条一項)、施行地区区域図は、施行地区の区域並びにその区域を明らかに表示するに必要な範囲内において宅地の地番及び形状等を表示したものでなければならないとされている(同条三項)。

したがって、施行地区を定めるためには、施行地区と土地区画整理事業を施行しない区域との境界(以下「施行地区界」という。)を確定することとなる。

4(一)  原告らは、他の者と

(1) 千葉市小山町五四番 原野 三五〇平方メートル

(原告須藤の持分七二分の一、原告関屋の持分七二分の二)

(2) 同町五五番二 公衆用道路 四九五平方メートル

(原告須藤の持分一〇四分の一、原告関屋の持分一〇四分の二)

を共同所有していたが、昭和五六年一二月一六日付けで、右五四番が五四番一と同番二とに、右五五番二が五五番二と同番三一とに、それぞれ分筆登記された(以下「本件各分筆登記」という。)。

そして、土気駅南地区区画整理準備委員会(以下「準備委員会」という。)は、被告の設立に際し、別紙図面のとおり、本件各分筆登記後の各土地の分筆境界をもって施行地区界として、五四番二及び五五番三一を施行地区内の土地とし、五四番一及び五五番二を施行地区外の土地として施行地区を定めた。

(二)  ところで、本件各分筆登記は、原告らを含む共有者の申請に基づいて行われたが、原告らについては、原告らの意思に基づかずに、原告ら名義の分筆登記申請委任状が作成され、その委任状に基づいて分筆登記がなされた。

二  争点及び争点に関する当事者の主張

本件の主要な争点は、被告の設立が有効か無効かの点である。

1  原告らの主張

前記一4の分筆登記手続は、準備委員会が、右分筆登記の権限がないのに原告ら名義の分筆登記申請委任状をそれぞれ偽造し、右各委任状を千葉地方法務局大網出張所(以下「法務局」という。)に提出して行使するという明らかな犯罪行為によって行ったものである。したがって、本件各分筆登記は無効であって、施行地区界は確定せず、施行地区も確定しなかったものである。

してみれば、被告の設立は、その前提たる定款及び事業計画において確定すべき施行地区を確定しないことが明らかであるから、事業計画は無効であり、組合の設立も無効である。

よって、組合設立の有効を前提とした設立認可処分には、重大かつ明白な瑕疵があり無効であるから、原告らは、その組合員たる地位にないものである。

2  被告の主張

前記のとおり、原告ら名義の分筆登記申請委任状が原告らの意思に基づかずに作成されたことは争わないが、以下の理由により、右の瑕疵は、重大かつ明白な瑕疵に該当せず、被告設立の無効原因にはなり得ない。

(一) 本件各分筆登記の経緯

(1) 旧五四番の土地は道路と山裾との間にある細い帯状の土地であって、道路と一体となって小山部落の構成員全員のために利用されていたものであり、また旧五五番二の土地は山道として、やはり小山部落の構成員全員のために利用されていたものであり、いずれも不動産登記簿上は共有として登記されていたにせよ、その実体は小山部落の構成員全員の利便のために供される入会地類似の土地あるいは総有的利用関係にある土地であった。

そして、当時の小山部落の慣行によれば、小山部落の構成員全員の利便のために供されている土地の利用関係、その処分・変更等は、部落に在住する者で構成する部落会の決議によってなされていた(なお、原告らは、小山部落に在住していなかった。)。

(2) ところで、昭和五六年夏ころ、千葉市区画整理指導課から被告の前身の準備委員会に対し「旧五四番の土地、旧五五番二の土地が施行地区の内外にまたがっており、施行地区を筆境ではっきりさせるため分筆登記をした方がよい」との行政指導がなされ、右行政指導を受けて、分筆登記の可否を諮るため昭和五六年一〇月二六日小山部落の部落会が開催されたが、右部落会においては、参加者全員が旧五四番の土地、旧五五番二の土地についての分筆登記をすることに同意するとともに、小山部落に在住していない人については、準備委員会事務局に分筆登記手続に必要な書類の作成をまかせる旨を決議した。

右部落会決議を受けて、準備委員会事務局は、原告らを含む小山部落非在住者についてはその意思を確認することなく、その者の分筆登記手続必要書類を作成したものである。

(二) 本件各分筆登記手続の瑕疵は、組合設立の重大明白な瑕疵に該当しない。

(1) 分筆登記は一筆の土地を複数の土地に分けるための「事実の登記」に過ぎず、対象土地の権利関係に影響を及ぼす「権利の登記」には該当しないから、原告らの意思に基づかないで分筆登記がなされたとしても、原告らが対象土地について有する権利は何ら侵害されていない。

(2) 法八二条一項は、施行者は、土地区画整理事業の施行のために必要がある場合においては、所有者に代わって土地の分割または合併の手続をすることができると定めているが、右規定の趣旨からするならば、被告の前身である準備委員会が行った本件各分筆登記手続は、右規定の趣旨に適合こそすれ、これに違反するとはいえない。

(3) 被告の土地区画整理事業は、現時点で総事業費ベースで九五パーセント、工事ベースでは既に99.9パーセント完成しており、本換地手続、登記手続、清算金交付手続を残すのみの段階となっている。区画整理対象地内には道路、公園、調整池、緑地等の公共施設、学校、駅等の公益施設も全て完成し、地域住民により利用されている。また、区画整理対象地内の宅地を購入し、家を建ててここに居住している住民も多数に及ぶ。

このような状況下において原告ら作成名義の分筆登記手続必要書類が原告らの意思に基づかずに作成されたという一事をもって被告の設立を無効とすれば、これまでの区画整理事業はその根底から覆され、前記事業内容の進捗状況から考えて区画整理事業が大混乱に陥ることは必定である。

かかる衡平の見地からみても、本件瑕疵は組合設立無効を基礎付ける「重大かつ明白な瑕疵」には該当しないというべきである。

(4) 本件訴訟は、実質的には、前訴(当庁平成元年(行ウ)第一四号組合設立等無効確認請求事件)の蒸し返しであり、濫訴としか言いようのない訴訟である。

3  被告の主張(二)に対する原告の反論

被告は、組合設立の無効を基礎付ける重大明白な瑕疵がないとして四つの理由を挙げるが、これらは、いずれも組合設立の要件とは無関係なことを主張するものである。

(一) 被告の主張する(1)の点は、組合設立無効とは無関係である。むしろ、施行地区の確定とは、事業範囲を確定するための事実関係の問題であって、土地の権利関係には着目していないのである。

(二) 被告の主張(2)の点は、施行地区の確定そのものの問題であり、重大明白性の問題ではないばかりか、そもそも本件では法八二条一項の適用ないし類推適用はあり得ない。すなわち、法八二条にいう代位による土地の分割手続が有効であるためには、「施行者」によってなされる必要があるところ、本件各分筆登記がなされた昭和五六年一二月一六日当時は未だ被告の組合としての設立認可処分はなされておらず、「施行者」は存在していない。また、準備委員会は施行者ではない。

(三) 被告の主張(3)の点は、組合設立の有効無効そのものの判断の問題ではない。

(四) 被告の主張(4)の点も、訴訟要件の問題であって、組合設立の無効の問題ではない。

第三  争点に対する判断

一  前記争いのない事実に証拠(以下の各項目ごとに示す。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

1  旧五四番及び旧五五番二の各土地の利用状況及び所有者

(一) 旧五四番の土地は道路と山裾との間に沿って伸びている細長い帯状の土地であって、道路と一体となって利用される形態のものであり、また旧五五番二の土地は部落民が付近の畑、山などの土地に入って農作業を行うために利用していた山道であって、作場道と呼ばれていた。右各土地はいずれも、不動産登記簿上は小山部落の構成員ら(九家一四世帯)の共有関係にあり、大正初期以降、構成員の各世帯の共有持分権は家督相続や相続等によってそれぞれの家の子や孫らに移転してきたが(その結果、各共有者の持分は別紙3(共有者目録)一、二記載のとおり細分化されていた。)、実際には共有者らが独占的に使用収益することなく、同部落の構成員であれば誰でも平等に使用収益の目的に供することができたものである。

そして、小山部落では、従来から右共有地の管理、処分等に際しては、部落会を開いて意思決定を行うのが慣行であった。

[甲第三号証の一、四、第四号証の一、二、第七号証の一ないし六、第八、第一六号証、乙第五号証の一、二、第一一号証、証人中島美博、同原田慶一の各証言]

(二) 原告らの先代石塚源造(以下「源造」という。)は、小山部落の他の構成員らとともに旧五四番、旧五五番二等の土地(源造の持分割合は旧五四番が九分の一、旧五五番二の土地が一三分の一であった。)を共同所有していたが、昭和五〇年三月二六日死亡し、原告らが石塚俊章、須藤猶、松戸さか(以下、右五名全員をいう場合に「原告ら五名」という。)とともに、源造の持分を共同相続した(原告ら五名及び源造の親族関係は別紙2のとおりである。)。

右相続後の原告らの持分割合は、以下のとおりである(別紙3参照)。

(1) 旧五四番の土地

須藤猶、松戸さか、原告関屋

各七二分の二

石塚俊章、原告須藤

各七二分の一

(2) 旧五五番二の土地

須藤猶、松戸さか、原告関屋

各一〇四分の二

石塚俊章、原告須藤

各一〇四分の一

右相続当時、原告関屋及び原告須藤はともに小山部落を離れて生活しており、自分達が前記各土地について源造の持分を他の親族とともに共同相続したことを知らなかった(原告らは、その後現在に至るまで小山部落に在住したことはない。)。

[甲第三号証の一ないし五、第四号証の一、二、乙第六号証、原告両名の本人尋問の結果]

2  本件各分筆登記に至る経緯

(一) 外房線土気駅南地区の住民にとって、土気駅南口の開設と同地区の都市基盤整備は長年の念願であったが、昭和四四年七月旧土気町が千葉市に合併された際、千葉市との間で土気駅南地区の土地区画整理事業(以下「本件区画整理事業」という。)を進めることが基本的に合意された。

[甲第九号証]

(二) 昭和五〇年ころから本件区画整理事業について地区内各部落住民の話合いが始まり、同年一二月、本件区画整理事業の一層の推進を図るために、各部落から選出された代表者計三七名を構成員とする土気駅南地区区画整理準備委員会が発足し、準備委員会は関係各部落内地権者との話合いや、本件区画整理事業への各地権者等の賛同書及び同意書の取得などの作業を開始した。

[甲第九号証]

(三) 昭和五五年一月七日、準備委員会は小山町内の施行地区界の境界立会いに関する説明会を開催し、原告ら五名はいずれも出席しなかったが、旧五四番の土地等についての共有持分を有する小山部落内の構成員の大部分の者が右説明会に出席した。

[乙第四号証の二二]

(四)(1) その後、昭和五六年夏ころになって、千葉市区画整理指導課から準備委員会に対し、「旧五四番の土地及び旧五五番二の土地が施行地区予定地の内外にまたがっているので、施行地区を筆境ではっきりさせるため、分筆登記をした方がよい」旨の行政指導がなされた。

(2) 右行政指導を受けて、準備委員会事務局担当者は、当時同会常勤委員の橋本実及び当時小山町内会長であった石塚俊章(旧五四番及び旧五五番二の各土地の共有持分を有していた。)に相談した上、右分筆登記について協議するため、昭和五六年一〇月二六日、小山部落の部落会を開催した。

右部落会には、当時部落会を構成していた九家のうちの六家の者が出席した(原告らは出席していないが、石塚俊章は出席した。)。

右部落会においては、「前記分筆登記は、共有地を売却するわけではなく、単に分筆線を入れるに過ぎないから、旧五四番及び旧五五番二の各土地の共同相続人のうち小山部落に在住していない者については連絡する必要はない」などといった趣旨の意見が参加者から出され、その結果、部落会において、参加者全員が旧五四番及び旧五五番二の各土地の分筆登記手続を行うことに同意するとともに、右分筆登記手続の必要書類の作成については、以下のとおりにすることが決定された。

ア 部落在住者は自ら署名捺印し、非在住者については準備委員会事務局の方で適宜必要書類を作成すべきこと

イ 旧五四番の土地及び旧五五番二の土地の共有者のうち、旧五四番については橋本順を、旧五五番二については岩崎好蔵を、それぞれ前記分筆登記手続その他本件区画整理事業遂行上の代表者とすること

(3) 右部落会においては、出席者から準備委員会事務局に対し、部落在住の者で欠席した者に対しても決議内容を説明すべきであるとの意見が出たので、後日事務局の方から欠席者に決議内容を説明し、了解を得た。

[乙第八、第一一、第一三号証、証人中島美博、同原田慶一の各証言]

(五) 右部落会決議を受けて、原告らなど小山部落非在住者については準備委員会事務局からその意思を確認することなく、右事務局によって原告ら名義の分筆登記申請委任状(甲第五号証の三ないし六)が作成された上、右部落会決議の趣旨に従い昭和五六年一二月七日付けで橋本順らを分筆登記申請人として法務局に分筆登記申請がなされ、本件各分筆登記がなされた。

[甲第五号証の一ないし一二]

3  本件各分筆登記後の経緯

(一) 次いで、昭和五七年八月七日付けで、五四番二の土地について法一三〇条二項の規定による共有地の所有者等の代表者として橋本順を選任する旨の届出書並びに定款及び事業計画に対する橋本順名義の同意書が準備委員会に提出されたところ、右代表者選任届には原告関屋を含む五四番二の土地の共有者の署名捺印があったが、原告関屋名義の署名捺印は準備委員会において原告関屋の意思を確認することなくしたものであった。

[甲第一二号証、原告関屋本人尋問の結果]

(二) その後、準備委員会は、施行地区となるべき区域の公告、予定施行地区内の地権者(人数及び面積にして三分の二以上)の同意書の取得、定款及び事業計画の作成等の法定の手続を順次行った後に、組合設立認可申請をし、事業計画の縦覧を経て、昭和五七年九月二八日千葉県知事から本件設立認可処分を受け、被告が土地区画整理組合として成立し、法人格を取得した(法一四条一項、一八条、一九条一項二項、二〇条一項、二一条四項、二二条参照)。

[甲第九号証、乙第一二号証]

(三) 被告の設立により、原告ら及び石塚俊章は、施行地区内に、分筆された五四番二及び五五番三一の各土地を共有することになり、また、そのほかに別紙1(物件目録)一2、3及び5の各土地を共有することとなったので、被告の組合員となった。

[争いがない。]

4  本件訴訟に至る経緯

(一) その後、石塚俊章らが本件分筆登記等の手続を問題視するようになったことから、石塚俊章ほかの者と、当時被告から本件土地区画整理事業を委託されていた東急不動産株式会社(以下「東急不動産」という。)の社員との間で話合いが行われ、その結果、昭和五九年三月一四日付けの覚書(乙第九号証の一)が作成された。

右覚書は、原告ら及び石塚俊章を含む源造の相続人が本件各分筆登記を追認し、また別紙1(物件目録)記載二の各土地の所有権者として、被告に対し前記3(一)のとおりの代表者選任及び被告の事業計画に対する同意を追認することなどを内容とするものである。

ところで、右覚書には、右覚書の締結及びその履行について、俊章が右一五名のうち俊章以外の者から代理権を付与されていることを東急不動産に確約保証する旨が記載されており、右相続人らの代理人兼本人として俊章の署名捺印が存在するが、俊章は、右覚書による合意の締結について、原告らを含む他の相続人らから何らの委任を受けていなかった。

[乙第九号証の一、二、証人石塚、同中島の各証言、原告須藤本人尋問の結果]

(二) 原告らは、昭和六〇年ころ、俊章から、旧五四番及び旧五五番二の各土地に原告らが源造から相続した共有持分が存在すること、右各土地についての共有持分権者作成名義の本件各分筆登記の申請委任状のうち、原告らの分についてはその意思を確認することなく作成され提出されたことを知らされ、同年一〇月ころ、東急不動産の社員中島美博ほかの者を右各申請委任状にかかる私文書偽造の被疑事実により、千葉南警察署に告訴した。

しかし、昭和六一年九月ころ、右被疑事実については不起訴処分がなされた。

[乙第一一号証、証人石塚、同中島の各証言、原告須藤本人尋問の結果]

(三) 原告ら五名は、源造から共同相続により取得した本件各土地の持分について、昭和六三年一二月二三日付けで、石塚政吉(源造の父)から源造への家督相続による持分権移転、及び源造から原告ら五名への相続による持分権移転の登記手続をした。

[甲第三号証の一ないし五、第四号証の一、二]

(四) 原告ら及び石塚俊章ほかの者は、平成元年、本件被告及び千葉県知事を被告として組合設立等無効確認請求訴訟を提起し、(1) 本件被告との間で被告の設立が無効であることの確認を、(2) 千葉県知事との間で同知事がした被告の設立認可処分が無効であることの確認を、それぞれ求めたが、一審判決において、(1)の訴えは過去の事実の確認を求めるものであるから不適法であるとして却下され、(2)は理由がないとして棄却された。右事件の原告らは控訴、上告したが、いずれも棄却されて、平成五年に一審判決が確定した。

原告らは、平成五年に本件訴訟を提起し、再び被告の設立が無効であると主張するものである。

[乙第一ないし第三号証]

二  以上認定した事実を前提に、被告組合の設立が無効となるかを検討する。

1  施行地区の意義

土地区画整理法における施行地区とは、土地区画整理事業を施行する土地の区域をいう(法二四条四項)。

土地区画整理法によると、土地区画整理組合を設立しようとする者は、事業計画において施行地区を定め(法一六条、六条一項)、かつ、定款に施行地区に含まれる地域の名称を記載して(法一五条二号)、知事の設立認可を受けなければならない(法一四条一項)とされており、また、知事は、設立認可後、遅滞なく、施行地区を公告しなければならない(法二一条三項)とされている。

このように土地区画整理組合の設立に際し施行地区を定めることが必要とされるのは、土地区画整理組合の設立に際してはその施行地区内の宅地の所有権者等の一定数の同意を要するものとされ(法一八条)、土地区画整理組合が設立されると施行地区内の宅地の所有者等が当然に組合員となり(法二五条)、さらに土地区画整理事業が開始されると施行地区内の土地について建築行為等の制限がされ(法七六条等)、施行地区について仮換地の指定(法九八条以下)や換地処分(法一〇三条以下)等が行われることとされており、このように、施行地区は、土地区画整理事業の範囲を画するものであって、土地区画整理事業が施行地区内の土地所有者らの権利関係に影響を与えるため、いかなる範囲の地域を施行地区にするかが重要であることによるものと解される。

2  施行地区の定め方と分筆の重要性

(一) 右のように、土地区画整理組合の設立の認可を受けるためには、事業計画において施行地区を定めなければならないが、施行地区を定めるに当たっては、施行地区位置図及び施行地区区域図を作成して定めなければならず(規則五条一項)、また、施行地区区域図は、施行地区の区域、並びにその区域を明らかに表示するに必要な範囲で市町村界等の境界、宅地の地番及び形状を表示したものでなければならない(規則五条三項)とされている。

右の規定に照らすと、組合設立の際に定める施行地区は、施行地区位置図及び施行地区区域図によって定めるべきものとされているが、一筆の土地が施行地区の内外にわたる場合に、組合設立の段階でその土地の分筆をしなければならないとする規定はない。すなわち、施行地区の範囲は明確に定めるべきことが要請されていることは明らかであるが(規則八条)、一筆の土地が施行地区の内外にわたる場合においても、施行地区区域図において施行地区界を明確に定めることができるのであれば、必ずしも土地を分筆しなければならないものとは解されない。いいかえると、右のような土地の分筆が施行地区を定めるための要件となっているものとは解されないのである。

このことは、また、土地区画整理法において施行地区を定めることが必要とされた理由が、前記1のとおり土地区画整理事業を施行する範囲を明確にすることにあることからいっても肯定される。すなわち、施行地区界が一筆の土地の中にあることになる場合であっても、分筆以外の方法で施行地区の範囲を明確にすることができれば施行地区界の特定として十分であり、施行地区を定めることができるといえるからである。

(二) ところで、組合設立認可がなされ、その公告があった場合には、組合は、当該施行地区を管轄する登記所に施行地区等施行規則で定める事項の届出をしなければならないところ(法八三条、規則二一条)、右届出をする場合において、一筆の土地が施行地区の内外にわたる場合には、右届出と同時に右土地の分割手続をしなければならないとされている(法八二条二項)。そして、施行者は、土地区画整理事業の施行のために必要があるときは、所有者に代わって土地の分割等の手続をすることができる(法八二条一項)とされている。

これらの規定の趣旨は、組合設立後土地区画整理事業を進めるに当たり、登記関係事項を円滑明確に処理するため、登記所への届出と土地の分筆等を要請したものと解されるのであって、これらの規定から、組合設立の際施行地区を定めるについて土地の分筆を要件としたものとは解されないのである。

したがって、本件各分筆登記の存在に関わりなく、土地区画整理事業を施行する範囲が明確であれば、本件において施行地区が定められていることになり、設立は有効なものというべきである。

(三) そこで、本件の施行地区について検討すると、土気南地区重合図(乙第四号証の二五)では、施行地区界が、石標、木杭の位置及び相互の距離により定められており、本件分筆登記の存否にかかわらず、本件施行地区界は明らかというべきである。

本件においては、法規の上では、組合設立のためには五四番及び五五番二の各土地の分筆手続は要件ではなかったが、千葉市区画整理指導課から準備委員会に対し、行政指導の形式で設立前に分筆登記をする方がよい旨促されたことから、分筆が行われるに至ったものと理解されるものである。

3  手続上の瑕疵が被告組合の成立に及ぼす影響

2で述べたように、本件各分筆登記の効力にかかわらず本件地区界は明らかであるとしても、本件の施行地区を定める手続において、原告らの意思に基づかずに分筆登記申請委任状が作成され、これに基づき本件各分筆登記がなされたという手続上の瑕疵があるので、被告組合の設立を無効にするかが問題となる。

この点についてみると、前記認定のとおり、本件においては、(1) 本件各土地は、原告らを含む小山部落の構成員が共同所有者となっているが、原告らは小山部落に居住しておらず、本件各土地を共同相続したことについても昭和六〇年頃まで知らなかったという状況があり、(2) 本件各土地については、小山部落の住民が作場道等に利用し、部落会によってその利用に関する事項及び処分等が決定されていたという利用状況が認められ、(3) 本件各分筆登記をするについては、部落会において小山部落会の構成員の大部分から同意を得ていたという経緯が認められるのであり、これらの点に施行地区界を定めるについて土地所有者の立会いあるいは同意を必要とする法令上の規定はないこと等を考慮すれば、本件の施行地区を定める手続において、原告らの意思に基づかずに分筆登記委任状が作成され、それに基づいて本件各分筆登記がなされたとしても、そのことが直ちに被告組合の設立に影響を及ぼすとまではいえないというべきである。

したがって、被告組合の設立の無効を前提として、原告らの組合員としての地位の不存在の確認を求める本件請求は理由がない。

三  以上のとおりであるから、本件各請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担については、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、同九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岩井俊 裁判官大西達夫 裁判官堀晴美は、転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官岩井俊)

別紙図面〈省略〉

別紙2

別紙3

別紙3

別紙1 物件目録

一1 千葉市緑区小山町五四番二

原野 二九一平方メートル

2 同町五五番一一

公衆用道路 四九五平方メートル

3 同町五五番二九

山林 一三平方メートル

4 同町五五番三一

公衆用道路 一三八平方メートル

5 同町五六番九

公衆用道路 二二一平方メートル

二1 千葉市緑区小山町五四番一

原野 五八平方メートル

2 同町五五番二

公衆用道路 三五六平方メートル

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